【エッセイ】神田の老舗そば屋にはダイソンの扇風機があった
「神田のまつや」と言えば、その名を江戸中に轟かす、泣く子も黙る老舗中の老舗。なんと創業明治17年。当然、スマホの行きたい店リストには入っている。が、いつでも行けるという思いがあり、なかなか足が伸びなかった。
そんな折、一冊の本を読んだ。「東京老舗の名建築」という本で、老舗の名店を、料理の写真は一枚も使わず、ひたすら建築物や内装、意匠だけで紹介していくという、マニアには堪らない内容。こう見えて建築マニアなので、当然、読了。この本、文句なく面白かった。そこで紹介されている四軒が密集していて、せっかくなら全部見てみたいと思い、念願が叶ったのだ。
最寄駅は都営新宿線の小川町。初めて降りた。地味な駅のB3出口をまっすぐ進むと、まつやに到着。良い。面構えが良い。内観は写真で見ていたよりも、小さく感じた。検温をして、消毒も済ませ、入口付近のテーブルに着席。
事前にホームページでおすすめを見ていた。老舗の味がじかに体感できる、もりそばにするか。かき揚げ天丼も気になる。結果、後者にした。そばは歳を取っても食べれるが、天丼は若いうちしか無理だろう。とは思わないが。単にお腹が空いていたのだ。
しばし店内を観察。まだ11時半なのに、奥の席では常連と思しき男性が、ビール片手に楽しんでいる。良いな、こういう風景。手前の席に目を移すと、うら若き女性が日本酒で一杯やっている。しかもお店のど真ん中の席。昼前にひとり酒。色々と気になる。
かき揚げ天丼はそんなに時間がかからなかった。小ぶりなエビが4本。その下にイカのかき揚げが敷いてある。タレが美味しい。一口目で「ナイスチョイス」と自分を褒め称える。ホームページの説明にもある通り、そば屋の天丼って美味しい。漬け物も絶品。濃いめの味付け。これだけで飲めそうだが今日は我慢。
お昼時ということもあり、また暑かったので、もりそばやざるそばを注文している人が多かった。丼を食べているのは私くらい。よく考えたら、老舗のそば屋でそばを食べないって、どうなんだ、これ。まぁ良いか。また来る楽しみも出来たし。寒くなったら、温かいそばを食べに来れば良いし。
そんなことを目の前のダイソンの扇風機を見ながら考えていた。明治17年から営業しているお店に、令和2年にこれが置かれるなんて。ダイソンも想定外に違いない。キビキビ動く女性店員(平均年齢60歳前後)の声が気持ち良い。「いらっしゃーい」と二人の声が重なる感じ。まるで映画の世界。
お会計を済ませ、お店の外に出て、改めてその建造物を見てみた。たまげた。これはやはり「生」で見ておくべきだ。本で紹介されていたその他のお店も散策。すぐに見つかり、それぞれの歴史を痛感。この狭いエリアにこんなにも老舗がひしめき合っているのは、それなりに理由があるはず。守られてるんだろな、きっと。小さな稲荷神社にて手を合わせ、初めての訪問の感謝と再訪を誓う。
あぁ楽しかった。来て良かった。素直にそう思えるお店でありエリアだった。他にもメモには残っているが未訪問の「宿題店」がいくつも見つかったので、また来よう。色々とあり過ぎて、決めるのも一苦労だけど。楽しみなことを選ぶのは、いつだって楽しい。
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